孫悟空タクシーのドライバーとして働く三十八歳の夜明日出夫は、三年前まで警視庁捜査一課の警部補だった。ある夜、夜明が乗せた男女のうち、女性のほうが三週間後に殺される。事件を知った夜明の脳裏に浮かんだのは、かつての幼なじみだった。
容疑の濃い美貌の女性には、事件当時、東京から約三百キロ離れた場所にいたという強固なアリバイがあった。しかも、そのアリバイを崩すことは容易ではない。元刑事としての経験と土地勘、そしてタクシーという仕事を武器に、夜明は事件の時間と距離を一つずつ追い始める。
元刑事がタクシー運転手として事件の謎に挑むという主人公設定が魅力的な本格推理小説。とりわけ、遠隔地に成立した鉄壁のアリバイをどのように崩していくのかという趣向に、笹沢左保ならではの緻密な推理が凝縮されている。後の「夜明日出夫の事件簿」へとつながるシリーズの原点となる一作。
