上州の亀穴峠を旅する木枯し紋次郎は、山中で暮らす八人兄弟に突然襲撃される。山刀、槍、弓矢など、それぞれ異なる武器を使いこなし、山で鍛えられた兄弟たちは、紋次郎を逃がすまいと追い詰めていく。彼らが紋次郎を狙う背景には、十年前に売られていった姉の存在と、ある事件をめぐる誤解があった。末弟が役人に捕らえられたことをきっかけに、兄弟たちは紋次郎を敵とみなし、執拗に追い続ける。
本巻には、表題作のほか、「旅立ちは三日後に」「桜が隠す嘘二つ」「二度と拝めぬ三日月」の全四編を収録。「旅立ちは三日後に」では、北国街道を行く紋次郎が、出産を控えた妻への荷物を託される。「桜が隠す嘘二つ」では、桜の季節に絡む人々の思惑が描かれ、「二度と拝めぬ三日月」では、紋次郎の旅路に思いがけない出来事が待ち受ける。
本作の魅力は、孤独な渡世人・紋次郎が、逃げ道のない状況に追い込まれながらも、自らの道を進む姿にある。表題作では、八人兄弟による多彩な武器を使った襲撃が緊迫感を生み、命を懸けた攻防が展開する。一方、収録作では、旅先で出会う人々の事情や哀しみが描かれ、紋次郎の非情さと人間味が浮かび上がる。死と隣り合わせの旅路を通じて、渡世人の孤独と人間の業を描いた一冊である。
