人は他人を、その姿や評判だけで判断してしまう。しかし、誰からも信頼される人物であっても、その内面まで同じとは限らない。本作では、周囲から特別な存在として見られている人物を中心に、人間関係の表と裏が描かれていく。穏やかに見える日常の中に、少しずつ疑惑の影が差し込んでいく。
やがて、これまで信じられていた人物像に疑問が生まれ、関係者の証言や行動にも微妙な食い違いが現れる。何気ない言葉や仕草の裏側には、それぞれの思惑や秘密が隠されている。事件の謎を追うだけではなく、「人は本当に相手のことを理解できるのか」という問いが、物語を通して浮かび上がってくる。
「聖像」という言葉が持つ清らかなイメージと、その「後ろ姿」に隠されたものとの対比が印象的な作品。善悪を単純に分けるのではなく、人間の心に潜む欲望や執着、愛情と疑惑を描き出すところに笹沢左保らしさがある。読者の人物を見る目を揺さぶりながら、静かな緊張感を保って進む人間心理のミステリー。
