千早芙美子は十八歳のとき、男女二人を刺殺した。警察に連行される途中の思わぬ出来事をきっかけに逃亡し、その後十三年間、身分を隠して各地を転々とする生活を送っていた。時効成立まで残された時間は一年半。長い逃亡生活の末、芙美子は危険を承知で東京へ向かう決断をする。
ところが東京へ向かう飛行機の中で、芙美子はかつて自分が殺した女性・八ツ橋真理の夫、待彦と偶然出会ってしまう。絶望する芙美子に対し、意外にも待彦は彼女の逃亡を助けると申し出る。やがて二人の間には愛情が芽生えるが、そこへ謎の男が現れ、新たな殺人事件が発生。待彦が容疑者となり、彼のアリバイを証明できるのは芙美子だけという状況が生まれる。
殺人犯として追われる女と、かつて自分が殺した女性の夫との間に芽生える愛情という、極めて緊張感のある設定が本作の魅力。逃亡生活のサスペンスと男女の心理を重ねながら、終盤に向けて事件の様相が変化していく。時効という時間的制約も物語に切迫感を与え、意表を衝く展開へと読者を導く、笹沢左保の「霧」シリーズを代表する長編ミステリー・ロマン。
