銚子の醤油醸造商の娘として生まれたおりん。しかし、度重なる悪事によって家を追われ、追分の宿場で女郎となる。その後、美貌を武器に親分の情婦の座を手に入れた彼女は、さらに罪を重ねていく。そんなおりんの殺人現場を、無宿渡世人・木枯し紋次郎は三度も目撃する。悪事を知られたおりんにとって、紋次郎は自分の立場を脅かす危険な存在となっていく。
自らの罪を悔いるどころか、目撃者である紋次郎を消そうと企むおりん。美貌と策略を駆使して相手を欺こうとする彼女に対し、紋次郎はどのように向き合うのか。人の道を踏み外した者を前にしても、感情に流されず、己の判断で行動する紋次郎の姿が物語を緊迫させる。表題作では、悪を重ねた女の末路が描かれる。
本書には表題作のほか、骨のある渡世人・赤岩の甚八と東海道を行く「振られて帰る果報者」など、全六編を収録。時代や境遇に翻弄される人々の姿を通じて、欲望や執念、義理といった人間の本質が浮かび上がる。紋次郎は正義を声高に語る英雄ではない。しかし、人の倫を踏み外した者と対峙するとき、その行動には揺るぎない厳しさがある。年月を経ても変わらない紋次郎の生き様と、笹沢左保ならではの非情な人間描写を味わえる一冊である。
