信州の高原地帯・油井を旅する木枯し紋次郎は、病に苦しむ女壺振りを助ける。人との関わりを避け、己の腕だけを頼りに生きる紋次郎だが、旅先で出会う人々の事情に、否応なく巻き込まれていく。やがて彼の前に現れるのは、土地の貸元の娘とうり二つの顔を持つ村娘。彼女は紋次郎に、両親が殺されるかもしれないと助けを求める。
村娘の訴えをきっかけに、二人の娘をめぐる不審な事情が浮かび上がる。貸元の家に関わる縁談、隠された出来事、そして人々が守ろうとする秘密。紋次郎は深入りするつもりもなく、いつものように淡々と事態を見つめるが、表面だけでは見えない人間関係が、物語を思わぬ方向へと導いていく。
本作では、街道を行く渡世人の姿を通して、人間の欲や保身、そして追い詰められた者たちの哀しさが描かれる。紋次郎は正義を掲げて人を救う英雄ではない。それでも、目の前に現れた謎から目をそらさず、鋭い観察眼で真相に迫っていく。霧雨に煙る街道の情景と、静かに張り詰める緊張感が印象に残る、ミステリーの味わいも濃い股旅小説である。
