金融会社の女社長・黒柳千秋が東京で刺殺される。捜査を担当する向坊警部補は、社長秘書の小田切に疑いの目を向ける。しかし、小田切には事件当時、長崎にいたという完璧なアリバイがあった。しかも、そのアリバイを裏付ける人物は、向坊の妻・由希子だった。
夫が殺人犯として疑う男を、妻が無実だと証明する――。刑事として事件を追う向坊と、アリバイを証言する由希子、そして小田切をめぐる関係は、単なる捜査の問題を超えて、三人の感情を複雑に揺さぶっていく。事件の背後にある人間関係にも、次第に疑惑の目が向けられていく。
鉄壁とも思えるアリバイを前に、向坊はいかにして事件の真相へ迫るのか。殺人事件の謎解きと、夫婦や男女の愛憎を重ね合わせながら、人間の心の揺れを描き出すところに本作の魅力がある。緻密なアリバイと濃密な人間ドラマが絡み合う、笹沢左保の「岬シリーズ」を代表する長編推理小説。
