天保十年二月。信州小県郡大日向村を訪れた木枯し紋次郎は、十人余りの男たちに襲われ、命を落とした末に無縁仏として葬られる夢を見る。人を信じず、他人から信じられることも嫌う紋次郎にとって、俗世との関わりを避け、義理や人情に縛られずに生きることは、渡世の中で身につけた処世術だった。
本巻には表題作のほか、「暁の追分に立つ」「女郎蜘蛛が泥に這う」「水車は夕映えに軋んだ」「獣道に涙を棄てた」の全五編を収録。紋次郎は旅の途上で、無宿人たちに襲われたり、女から頼みごとを持ちかけられたり、追い剥ぎに襲われた夫婦を助けたりと、さまざまな人々や事件に遭遇する。それぞれの土地で繰り広げられる出来事が、渡世人の厳しい現実を浮かび上がらせていく。
本作の魅力は、紋次郎の孤独な生き方を通して、時代の変化に翻弄されながら日々を生きる人々の姿を描いている点にある。天保の改革や大塩平八郎の乱など、世の中が大きく動く時代であっても、人々の暮らしは目の前の生活に追われている。無縁仏という象徴的な題材を通じて、孤独や無常、そして人間の哀しみを静かに描き出した、木枯し紋次郎シリーズの一冊である。
