北国街道を歩く木枯し紋次郎は、行きずりの男から、ある荷物を託される。荷物を届けなければ、子供が間引かれてしまうという。紋次郎は男の言葉を信じて荷物を預かるが、その中には二百両もの大金が入っていた。男の真意は何なのか。紋次郎は騙されたのか、それとも子供の命を救うための訴えは本当なのか。かつて自らも間引かれかけた過去を持つ紋次郎にとって、子供の命に関わる話は、決して他人事ではなかった。
本巻には、表題作のほか、「鴉が三羽の身代金」「四つの峠に日が沈む」「鬼が一匹関わった」の全四編を収録。「鴉が三羽の身代金」では、牢破りの八人組が三人の渡世人を人質に取り、身代金を要求する。「四つの峠に日が沈む」では、紋次郎と同じ名を持つ犬が物語の鍵を握り、「鬼が一匹関わった」では、意外な展開が待ち受ける。
本作の魅力は、他人との関わりを避けて生きる紋次郎の孤独と、逃れられない過去や人間の情が交錯するところにある。表題作では、間引かれかけた幼少期の記憶が、目の前の子供の運命と重なり、紋次郎の心に複雑な影を落とす。人を信じず、誰にも頼らずに生きる渡世人の姿を通して、命の重さと人間の哀しみを描いた、シリーズの魅力あふれる一冊である。
