人は誰も、他人には見せない顔を持っている。愛情の裏側にある執着や嫉妬、過去への後悔や欲望。さまざまな感情を抱えた人物たちが交錯するなかで、過去の出来事が現在に影を落とし、穏やかだった人間関係にも少しずつ亀裂が生じていく。
やがて、一見すると無関係に思われた出来事がつながり始める。登場人物たちが語る言葉の裏側には、それぞれの事情と秘密が隠されている。誰が何を隠しているのか。そして、過去に起きた出来事が現在の人々にどのような影響を与えているのか。疑惑は次第に深まり、物語は緊張感を増していく。
男女の愛憎を軸に、人間の心に潜む「魔性」を描き出すところに本作の魅力がある。単純な善悪では割り切れない人間心理を丁寧に描きながら、読者の予想を揺さぶっていく展開も印象的。『仮面の月光』に続く「月光シリーズ」の作品として、笹沢左保らしい濃密な人間ドラマとサスペンスを味わえる一作。
