世界的に活躍する天才ヴァイオリニスト・神尾八千代は、ドイツ留学中、母・貴子が九州天草の十三仏崎で男と心中したという知らせを受ける。相手は母の幼馴染みだった森田八郎。二人は遺書を残して断崖から身を投げたとされ、事件は心中として処理されていた。
帰国した八千代のもとを訪ねたのは、二人を昔から知る刑事・山ノ内陽介だった。山ノ内は、この事件には自殺では説明できない疑問が残されていると告げる。さらに一年半後、ドイツから戻った八千代に、刑事は母の死に関して父・神尾を犯人として疑っていることを明かす。八千代は父の潔白を確かめるため、そのアリバイを自ら追うことになる。
母の死の真相を追う娘と、父の犯行を疑う刑事。その対立する視点から、事件当日の行動や人間関係を一つずつ検証していく展開が本作の魅力である。華やかな音楽家の世界とは対照的な、天草の海と断崖を舞台に、家族の愛情と疑惑、そして巧妙なアリバイを描いた本格推理作品。
