あてのない旅を続ける無宿渡世人・木枯し紋次郎。那須の山道で出会ったのは、人さらいに襲われている女と、廻船問屋の主人・作右衛門だった。紋次郎は成り行きから女を救うことになる。一方、作右衛門には、十三年もの間、行方を探し続けている娘がいた。偶然の出会いをきっかけに、長い歳月を隔てた親子の物語が動き始める。
その後、作右衛門は大谷寺で実の娘と再会する。しかし、失われた年月は簡単には埋められない。親子が再び出会うまでに何があったのか。人さらい事件の背後にある事情と、歳月によって変わってしまった人間の運命が、物語に深い哀感をもたらす。表題作は、事件の謎を追う面白さとともに、親子の絆や人生の無情を描いた一編である。
本書には表題作のほか、中山道を舞台に、二人の雲水の目を通して渡世人の姿を描く「峠だけで見た男」など、全六編を収録。各地の街道で紋次郎が遭遇する事件を通して、人間の欲や情、思いがけない縁が浮かび上がる。孤独を貫く紋次郎の生き方はそのままに、年月を重ねた人々の姿にも目を向けた、味わい深い短編集である。
