美しい人妻が殺害され、捜査線上に浮かんだのは、元大学助教授の高野真一郎だった。状況から見れば犯人であることは明らかなように思われる。しかし、高野には犯行時刻の完璧なアリバイがあった。しかも、そのアリバイを裏付ける重要な証人は、警視庁の警部・伊勢波邦彦自身だった。
自分自身が容疑者のアリバイを証明する立場となった伊勢波は、事件を改めて見直すことになる。さらに、高野という人物の背景を探る中で、事件には歴史上の人物・高野長英にまつわる興味深い要素も絡んでくる。単純な殺人事件としては捉えきれない謎が、次第に伊勢波の前に姿を現していく。
犯人のアリバイを自ら証明してしまった警部が、そのアリバイの盲点を探りながら事件の真相に迫る構成が本作の大きな魅力。巧妙なアリバイトリックに歴史ミステリーの趣向を加え、さらに人間の愛情や哀しみを織り込んだ、笹沢左保らしい本格推理小説。伊勢波邦彦が活躍するシリーズの幕開けとなる一作。
