天保十年九月。長い旅を続ける木枯し紋次郎は、二十年ぶりに生まれ故郷・上州新田郡三日月村の近くを訪れる。激しい雨の中、落雷によって意識を失った紋次郎を助けたのは、石切り人足の老人・与作と、その孫娘だった。目を覚ました紋次郎は、与作の家で世話になるうち、老人が実は盗賊「泥亀の喜三郎」の仮の姿であることを知る。
本巻には、表題作のほか、「錦絵は十五夜に泣いた」「怨念坂を蛍が越えた」「冥土の花嫁を討て」「笛が流れた雁坂峠」の全五編を収録。飯盛旅籠の女将や逃亡する女中との道中、化け物の噂が流れる坂道、仇討ちの相手と間違えられる事件、厳しい関所改めをめぐる騒動など、紋次郎は旅先でさまざまな事件に遭遇する。
故郷に近い土地での出会いを描く表題作は、紋次郎の過去と、思いがけない人物の正体が交錯するサスペンスが見どころ。ほかの収録作も、それぞれ異なる土地や人間模様を舞台に、巧みな導入と意外性のある展開が楽しめる。孤独な渡世人の旅路を通して、人間の欲望や哀しみ、義理と非情が描かれた、シリーズの魅力が詰まった一冊である。
